エール大学の経済学者イアン・エアーズによる
数学および統計学の啓蒙書です。MBA09先輩のひとりが勧めてくれたのを受けて購入しました。

原題は『Super Crunchers』。直訳すると「
絶対計算屋」という名の通り、統計分析の秘めた力について軽快に(翻訳もなかなかうまくできてますね)語られています。
以前紹介した衝撃のベストセラー
『ヤバい経済学』に相通じる部分がありますが、政策決定やカード会社のマーケティング戦略といった
実例が豊富に紹介されているのが付加価値大です。

参考記事:
【評価ギャップ】『ヤバい経済学』@すべては人の心次第 統計分析の力に関する論証は、非常にインパクトがあります。
筆者はこう断言します。
「人が機械に勝てるのは作り話の中でだけなのだ」と。
現実世界は計算だけでは割り切れないのだから、”直感と計算を組み合わせてうまく付き合っていくことが大切”といった着地点かと思ったら、「
絶対計算の支援をもってしても、人の予測は絶対計算の身の予測に劣る」と容赦がありません

(汗)。
次々に示される事例を読み進めていくと
「人間の経験/感覚」の脆さに背筋が凍ります。
では、人間は何をすべきなのか

- 筆者の答えは「
頭や直感を使って統計分析にどの変数を入れる/入れるべきではないか推測すること」でした。むむ、納得。
-そう、
「専門家」の意義が明らかに変容してきていることを認めなければいけません。
ある事柄について、単に
「知っている」「やったことがある」だけでは、あまり意味がない
のですね。もはや残念ながら。
google検索で大抵の情報は一瞬で取れる世界で、
プロフェッショナル
として自分の価値を高めるためには何を身につけるべきなのかを考えるヒントにもなりそうです。
振り返ると、本書は
意思決定に関するマインドセットを切り替えるきっかけを与えてくれる一冊といえます。
すなわち、
演繹法的に「原因がわかるまで何もしない」のではなく、帰納法的に「やってみる」。そして、直感は前段において、絶対計算をベースに意思決定を進めていく。
意思決定のレベルを高め、自身のプロフェッショナル観を見直す、
思考のギアチェンジのためにおすすめの一冊です

。ぜひ。
以下は、印象に残った部分のメモ。
●(データ主導のお見合いサイト eHarmony は)個々のメンバーの意識的な選択を超えて、無意識の隠されたレベルで機能する群衆の知恵だ。
●コンピュータにコインを投げさせて、表が出た人と裏が出た人で扱いを変えてみるというのは、これまでに考案された最も強力な絶対計算技法の一つなのだ。過去のデータに頼ると、因果関係を抽出するのはずっと難しくなる。
●(インターネットによって)人々の集団にある経験を提示する費用は限りなくゼロに近づいています。
●「コンピュータはわれわれより記憶力がいいんです」・・・誤診の最大の原因は「はやすぎる結論」だ。医師は自分が正しい診断に達したと思ったら、他の可能性には目を閉ざしてしまう。・・・他の可能性について早めに指摘してくれるだけで、効果はかなりのものだ。
●多くの医師は(その他本書で出会うあらゆる意思決定者と同じく)いまだに診断というのが、自分の専門性と直観に大きく依存した技芸なのだという発想にしがみつく。だが絶対計算者にしてみれば、診断というのは予測の一種でしかないのだ。
●偏りと自信過剰の問題は、予測が複雑になるにつれて一層悪化する。・・・(考慮すべき要因がはっきりしないと)ついつい何年も経験を持つ専門家にひれ伏すという間違いをしてしまいがちだ。こういう人たちは、自分が一般人より物知りだと自信を持っている。現実世界の意思決定もこれで歪められてしまう。
●「無感情になるのは金融の世界ではとても重要なことです」
●どこかの時点で、絶対計算の優位性というのは他人事ではない、ということを受け入れるべきだ。
●数字は感情や思考を持たないが、それを解釈する絶対計算者は持っているのだ。
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